口腔の腫瘍

1. 口腔の腫瘍とは

歯肉や口唇、顎骨、扁桃腺等にできる腫瘍を口腔腫瘍といいます。口腔内は腫瘍発生部位としては4番目に多い部位で、犬では全腫瘍中3~6%を占め、猫では全腫瘍中3%を占めると言われています。犬の口腔内腫瘍のうち半数以上が炎症性でありそのほとんどは線維性エプーリス(歯肉の過形成)であると報告されています。犬でみられる悪性のものでは悪性黒色腫(30~40%)、扁平上皮癌(17~25%)、線維肉腫(8~25%)の3つが悪性口腔腫瘍の8割を占めます。他には骨肉腫、リンパ腫、肥満細胞腫、軟骨肉腫等もみられることがあります。猫の場合は犬と異なり、悪性口腔腫瘍のうち約7割が扁平上皮癌であると言われています。

口腔の腫瘍

2. どのような症状がおきますか?

小さい腫瘤や口腔内の見えづらい場所に発生した腫瘤は症状がないことも多く、麻酔の挿管時や歯科処置の際に偶然発見されることもあります。腫瘍が大きくなるとよだれが増える、口臭、出血、痛みにより食事を十分にとることができなくなります。悪性腫瘍の場合は浸潤性が強いため腫瘍が大きくなると眼球や頭蓋骨などの周囲組織に影響を及ぼし、顔面が変形し、眼球突出や、鼻出血が生じます。また口腔内を占拠する大きな腫瘤は呼吸障害や嚥下障害を引き起こすこともあります。腫瘍浸潤による骨破壊から顎骨の病的骨折が起こることもあります。

3. 確定診断はどのようにしていますか?

麻酔下で生検を行い診断します。腫瘍の大きさや深部への広がりを視診や触診にて確認し、口腔内レントゲンを撮影して骨への浸潤を確認します。また通常はレントゲンの検査よりもCT検査の方が転移や骨破壊の有無、腫瘍の位置などを確認するのに適しており、手術計画を立てるためにはCT検査が必要です。最終的には病理検査の結果がでて確定診断となり治療法を相談させていただきます。

4. 犬の悪性口腔腫瘍

犬の悪性口腔内腫瘍のうち発生頻度が最も高い口腔悪性黒色腫(メラノーマ)について紹介します。
老齢の小型犬に多い傾向があり、好発犬種はトイプードル、ミニチュアダックスフンドです。腫瘍は急速に成長し、局所浸潤が強く転移が早いのが特徴です。転移部位は主に肺、肝臓、領域リンパ節、副腎等です。口腔悪性黒色腫はWHOのステージ分類での臨床ステージで分類されます。臨床ステージで予後がかわるため治療の指標となります。

<臨床ステージ>
【Ⅰ】 
原発腫瘍の直径≦2cm・・・生存期間中央値→17-30か月

【Ⅱ】 
2cm≦原発腫瘍の直径≦4cm・・・生存期間中央値→5―29か月

【Ⅲ】 
2cm<原発腫瘍の直径<4cmだが、リンパ節転移あり
あるいは原発腫瘍の直径>4cm・・・・生存期間中央値4-6か月

【Ⅳ】 
肺やその他の部位への遠隔転移がみられる・・・生存期間3か月程度

遠隔転移がみとめられていないステージⅠやⅡでは外科手術が選択されます。腫瘍が小さく転移を起こす前に完全切除できれば長期的な予後が期待できます。しかし実際には症状が進行した状態で来院することも多く、そのような場合予後は悪く長期生存率も低いとされています。

5. 最後に

口腔腫瘍は早期に発見し治療することが大切です。食事量が急激に減少したり、よだれや出血等なにか症状がある場合は口腔内に何か異常がないか注意してみていきましょう。悪性の場合腫瘍が速いスピードで大きくなる可能性が高く、転移する傾向があるので早期発見が重要になります。なかなかお口の中を見せてくれない子もいますが、のぞいてみたり異常がないかをチェックすることはとても大切なのでお家で気にかけてください。

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