腎不全
1. 猫の腎不全
腎不全とは病気の名前ではなく腎臓の機能が25%未満に低下した状態を指します。
腎不全には急性腎不全と慢性腎不全があり、今回は高齢のねこちゃんに増えてくる慢性腎不全のお話しをします。
慢性腎不全の発症率は年齢とともに増加し、猫において主要な死亡原因の一つです。
慢性腎不全の猫では心筋症や甲状腺機能亢進症、腫瘍といった他の老齢性疾患を併発していることも多いため、これらの病気の管理においても慢性腎臓病の適切な診断や治療は重要となります。
2. 原因はなんですか?
過去のウイルス感染や細菌感染、尿石症などに伴う慢性腎炎(糸球体腎炎、間質性腎炎、腎盂腎炎)、尿路閉塞、先天性・遺伝性腎臓病(腎形成不全や多発性嚢胞腎)、加齢に伴う腎機能低下あげられます。
また急性腎不全の治療後充分に腎機能が回復しないと慢性腎不全に移行することがあります。
3. 特徴
数か月~数年単位でゆっくりと腎機能の低下がみられます。腎臓は予備能力が高いため、腎臓機能の75%が障害されないと目立った症状が現れにくく血液検査などの結果も異常値がみつからない場合もあります。
慢性腎不全は進行性であり一度失った腎機能は回復することはできません。
4. どのような症状がおきますか?
よくみられる初期症状は「多飲多尿」です。
薄い尿が多量にでるので猫独特の尿臭もなくなってきます。必要以上に尿がでるため、飲水量が増えていても脱水状態になります。
病態が進んでくると少しずつ元気消失、食欲低下、被毛粗剛、体重減少などが見られるようになり、さらに病態が進行すると良く寝ていることが増え、体内に老廃物が溜まって嘔吐や口腔内潰瘍、下痢や便秘、痙攣といった尿毒症症状がみられます。
また造血ホルモンの低下による貧血、高血圧に起因する網膜剥離による失明といった一見直接腎臓と関係ない症状もみられることがあります。
5. 診断
身体検査、尿検査、血液検査、画像検査などを組み合わせて診断します。
通常、腎臓機能が75%以上障害されてからでないと血液検査結果は異常値を示さないといわれています。
猫では現在SDMAという猫の腎臓病のより早期の診断を可能にする血液検査の新項目もあり、腎機能が40%低下してくると異常が検出できます。
尿検査では尿比重の低下や尿蛋白を調べることによって血液検査よりも早期に腎臓の異常を検出できることもあります。
また画像診断によって慢性腎不全の原因を特定したり、腎臓の状態を把握します。必要に応じて眼底検査や血圧測定も行います。
6. 治療
急性腎不全と異なり、慢性的にダメージを受けた腎臓組織が回復することはとても難しいです。
慢性腎不全の初期の治療目的は残っている正常な腎臓組織にできるだけ負担をかけないようにすることにあります。
これから腎臓病の治療法をいくつかご紹介します。
食事療法
腎臓の負担になりやすいタンパク質やリン、塩分などを抑えたものがよいと言われています。
ただし、猫はもともとタンパク質の要求量が多いので、極端な制限は避けるべきです。
適切な脂肪酸、ビタミン、ミネラルなどを添加しておく必要もあります。
適切な食事療法を行えば尿毒症になるまでの期間や生存期間を延ばすことができるといわれています。病院には様々な療法食があるのでご相談ください。
サンプルのご用意もあるので実際に試していただくことも可能です。
吸着剤の投与
腎機能が低下すると体に老廃物が蓄積しやすくなるため吸着剤の投与行います。
吸着剤により体に蓄積する老廃物の一部を腸管で吸収し、便とともに排出し尿毒症症状が軽減されるようにします。
吸着剤も錠剤や粉などさまざまな種類があるため、継続して服用できるものを探していきましょう。
貧血の治療
腎機能が低下すると腎臓のエリスロポエチンの分泌が低下することによって貧血をおこします。
腎性貧血は進行していきますので、造血ホルモン製剤の注射を二週間に一度行います。
脱水の緩和
慢性腎不全の猫は容易に脱水状態に陥りやすくそれによって腎機能がさらに悪化するため輸液治療が行われます。
静脈点滴の場合は入院治療となりますが、皮下点滴の場合は静脈点滴よりも吸収率は落ちますが自宅でも行うことができます。
その子の体重や脱水状態を考慮し適切な輸液を行うことで脱水を緩和し腎機能の悪化を防ぎます。
その他
蛋白尿や高血圧が見られる場合は症状に合わせた投薬を行います。
低カリウム血症を起こすこともありますので療法食のみで低カリウム血症を抑制できない場合は経口的なカリウム補充を考慮します。
この場合はグルコン酸カリウムが用いられ、錠剤や液体のお薬もあります。
このような治療を行っていても慢性腎不全は少しずつ進行しさらに症状が顕著になってきた場合は対症療法が中心となります。
7. 予防
慢性腎不全は高齢の猫に増えてくる病気です。一度失われた腎機能は回復しません。
早期発見・早期治療のために年に1~2回の健康診断の実施が推奨されます。
血液検査でBUN、クレアチニンをみるだけでなく、SDMAや尿検査、超音波検査もあわせておこない早期の腎臓の異常を検出できるよう定期的な検査を行っていきましょう。