こんにちは。野並どうぶつ病院の病院ブログをご覧いただきありがとうございます。このブログではワンちゃん、ネコちゃんの病気や病院で行っている手術についてご紹介していきます。今日は「僧帽弁閉鎖不全症」とういうワンちゃんで比較的多くみられる心臓の病気についてお話しをします。
僧帽弁閉鎖不全症は全ての犬種でみられますがとくに中年齢以上のマルチーズ、シーズー、ポメラニアン、プードル、キャバリアキングチャールズスパニエル、チワワなどに多発し4~5歳齢をピークに加齢とともに発生が増加するといわれています。雄は雌の1.5倍の罹患率をもつといわれています。心臓病というのは初期には目立った症状がないため、なかなか気づきにくく症状が現れるころにはひどくなっているケースがほとんどです。
1、原因は?
僧帽弁とは心臓の左心房と左心室の間に位置する二枚の薄い弁のことです。心臓が収縮したさいに心房と心室を閉鎖し左心房への血液の逆流を防ぐ役割を果たしています。僧帽弁閉鎖不全症ではこの弁が粘液変性によって肥厚し、うまく閉まらなくなると血液が左心室から左心房へ逆流します。僧帽弁がうまく閉じなくなると血液の一部が逆流してしまうことで全身へうまく血液が送り出せなくなります。初期の段階では心臓が頑張って働くことにより全身に大きな影響はありませんが、この状態が長く続き限界をむかえると心不全の状態になります。また弁を支持している腱索が断裂して急激に症状が悪化する場合もあり、その時は急死する可能性もあります。
2、どんな症状がおきますか?
僧帽弁における血液の逆流が軽度の場合には循環状態や心臓の形態に大きな影響を与えることはないため臨床症状(咳や運動不耐性)の発現や心拡大などの異常所見はみられません。時間の経過とともに僧帽弁や腱索および乳頭筋などの障害は進行し同時に逆流量も増加することで左心房は拡張してきます。左心房の拡張が進行すると背側に位置する気管支が物理的に圧迫され興奮したときや運動したときに咳がでるようになります。咳は多く認められる症状の一つなので咳を頻繁にするようになった場合は注意が必要です。自宅でも心拍数や呼吸数、食欲の変化や散歩の様子等を確認し、変化がないかを見ていく必要があります。また心不全が悪化し、肺に水が溜まる「肺水腫」になった場合は緊急性が高く命に関わります。
3、診断
身体検査が重要となり心雑音が聴取されることがほとんどです。発咳や以前よりも疲れやすくなった等の行動の変化や呼吸状態に異常がないか確認をします。その他にはX線検査や超音波検査が重要となります。X線検査では心陰影(特に左心系)の拡大や肺野の不透過性の亢進、気管支の圧迫等を確認します。超音波検査では弁の逆流や腱索の状態、心房や心室の肥大を確認します。また場合により血圧測定や心電図検査によってより詳細な病態を把握することができます。
4、どのような治療を行いますか?
臨床症状や検査結果によって重症度を評価し、その段階にあった治療を行っていきます。主に食事療法や内服薬としてアンギオテンシン変換酵素阻害剤や強心薬、血管拡張薬、B遮断薬、状態によっては利尿剤の投与を行います。基本的に一生投薬が必要になります。根治治療としては心臓外科手術になり、僧帽弁の修復術が有効な方法だとは考えられています。しかし手術が適応にならないタイプの心不全や持病(腎不全や重度の肝障害等)がある場合は手術は慎重に考える必要があります。また手術費用も高額になります。対応できる病院は限られていますので希望される場合はご紹介させていただきます。
5、最後に
僧帽弁閉鎖不全症は加齢ともに増加する犬の代表的な心疾患です。心臓病というのは初期には目立った症状がないため、なかなか気づきにくく症状が現れるころにはひどくなっているケースがほとんどです。症状がない場合でも定期的に病院を受診し、聴診で異常がないかみてもらいましょう。異常がある場合や、症状があれば検査をお勧めします。何か不安なことや聞きたいことがあれば一度病院にいらしてください。