こんにちは。野並どうぶつ病院の病院ブログをご覧いただきありがとうございます。今日は病院で使用されている食欲増進剤についてのお話しをしたいと思います。
様々な工夫を施しても食事をとらないワンちゃんやネコちゃんに対して食欲増進剤を投与することがあります。よく用いられる食欲増進剤としてシクロへプタジン塩酸塩水和物(製品名:ペリアクチン)、ミルタザピン(製品名:レメロン)、抗てんかん薬であるジアゼパム(製品名:セルシン、ホリゾン)、新薬のカプロモレリン(製品名:エンタイス)などがあります。特にミルタザピンは日本では錠剤のみが流通していますが海外では注射薬や外用薬(軟膏)もあり耳介に塗ることができるため、食欲不振のネコちゃんにも使いやすく注目が高まっています。当院でも海外から外用薬を輸入し使用しています。本日はワンちゃんやネコちゃんで使用されている食欲増進剤の種類、各特徴について説明していきたいと思います。
1、はじめに
まずはじめにお伝えしたいことは、食欲増進剤は万能薬ではなく基礎疾患の治療が成功しなければ薬物単独で食欲を正常化させることは難しいということです。一般的には薬物による食欲増進効果の持続時間は短く補助的な手段にすぎず、胃瘻や食道チューブ設置などによる真の栄養補助療法とは異なることを認識する必要があります。また様々な食欲増進剤がワンちゃんやネコちゃんで使用されていますが、これらの多くは薬剤本来の効果ではなく、副作用による食欲の増進を利用したものになります。そのため薬剤によってそれぞれ特徴があり、副作用の出方もかわります。
2、食欲増進剤の種類
①ジプロへプタジン(製品名:ペリアクチン)(犬・猫)
【作用・特徴】
抗ヒスタミン作用により蕁麻疹、花粉症、喘息などによる皮膚の腫れや痒みなどの症状を改善する抗アレルギー薬です。ワンちゃんではネコちゃんよりも急速に代謝排泄されるため食欲増進剤としての効果は弱いと言われています。副作用には攻撃性の亢進、遠吠え、行動の変化などがあります。これらの兆候は容量を減量または投薬を中止すれば改善することが多いと言われています。
②ミルタザピン(製品名:レメロン)(猫)
【作用・特徴】
レメロンという商品名で日本では人体薬として錠剤が流通しています。ノルアドレナリン・セロトニン作動性の抗うつ剤で、人医療ではうつ病の治療に用いられています。海外では注射薬や外用薬(軟膏)もありますが日本では流通しておらず、現在病院で使用している外用薬(軟膏)は海外から輸入しています。近年ではレメロンは食欲増進剤として人の癌関連性悪液質および加齢性筋肉量減少症などに幅広く使用され、獣医療においても同様の目的で使用されています。ネコちゃんの場合、外用薬(軟膏)を一日一回耳介にぬることで経皮的に吸収され作用を発揮します。入院中のネコちゃんについて行われたある研究では、ミルタザピンの投与により80%以上の猫において食欲の増進効果が認められたそうです。ただし、用量に個体差があるため感受性が高いネコちゃんでは投与後に若干ソワソワしたり興奮したり、夜鳴き、徘徊という行動や性格の変化を伴うこともあります。お薬の効果が切れれば元に戻ります。
③ジアゼパム(製品名:ホリゾン、セルシン)(犬)
【作用・特徴】
ベンゾジアゼピン系の薬剤で静脈内投与または経口投与によって食欲増進効果がみとめられます。静脈内投与した場合には食欲増進効果の持続時間は数秒で現実的には食欲増進剤としての実用性は低いため、経口薬で使用します。強い鎮静効果があるため衰弱状態や重症疾患の動物には利用できません。またネコちゃんに繰り返し投与すると重度の肝不全に進行する可能性があるため積極的な使用は推奨できません。
④カプロモレリン(製品名:エンタイス)(犬)
【作用・特徴】
米国で「空腹ホルモン」とよばれるグレリンの作用と類似した作用をもつ新たな犬の食欲増進剤が米国医薬品局(FDA)で認可され、2017年より販売されました。上記でご紹介した薬は副作用で食欲増進させるというものでしたが、エンタイスは副作用ではなく主作用として犬の食欲増進作用を示すものとして承認を受けた薬です。甘いにおいのする薬なので苦手な子はよだれがでたりしますが、あまり嫌がらずに飲んでくれる子もいます。日本での販売はしておらず、当院では海外より薬を輸入して使用しています。
3、最後に
ワンちゃんやネコちゃんに食欲増進効果のある薬剤について紹介しました。先ほども述べたように原疾患の治療がされなければ、食欲増進剤を使用しても食欲が維持できません。しかし高齢猫に多い慢性腎臓病や腫瘍性疾患、食欲不定の糖尿病のような病態に対しては食欲増進剤は一定の効果を発揮し、延命効果も認められます。何とか食べて体重を維持するというのはとても重要なことで、例えば腎不全治療中の猫ちゃんが食欲低下によりいったん体重が減ってしまうと、体重をまた盛り返すのはけっこう大変なことなのです。食欲が落ちて体重が減り気味の子には積極的に投与を検討してみてもいいでしょう。その子に合わせたお薬を処方しますので一度病院でご相談ください。